元も子もない

 小さい時の記憶というのがあまり無い。

50歳、60歳を超えた人が小さい時の記憶を詳細に書いてるのを読んだ時、「記憶力がすごいな」といつも思う。けれども、他の人もよく小さな時のことを覚えているので、自分の記憶力があまり良く無いだけかもしれない。

 断片的に覚えているのが、小学生の時(たぶん低学年だったような気がする)の簡単な課題だ。ある紙を渡され、紙にの左半分には散らかった部屋のイラストが描かれていた。子供部屋だと思しき部屋の床におもちゃなどが散らばっている様子が描かれていた。左半分は空欄の四角枠があり、その上に「きれいになった部屋をかいてみましょう」と書かれていた。他の子どもは部屋の机や床を右半分に写していた。

自分は枠の中に看板を描いた「売地 1つぼ10万円」

これで”きれい”になったと自分も大満足した記憶がある。その後どういう感想をもらったのかは覚えていない。たぶん、スルーされたのだろう。

今でもこの絵が綺麗な状態だと思っている。

初めから部屋がなければ何も起こらない。家を潰して更地にしてしまえば、二度と散らかる(汚れないとはいっていない)ことはない。

 

しばらくこの絵を忘れていたが、就職して抑鬱状態になり、「死にたい」という思いも出てきた。うつ状態になると何もしたくなくなる。その時、どうせ死ぬのなら何をしても無駄では無いのか、どういう評価をされようと、何を買っても、何を食べても、全ては無駄では無いのかということが、現実のものとして意識される様になった。

 

それでも、女の裸を見れば劣情が刺激されるし、腹が減ると美味しいものが食べたくなるし、時計や車を見ると欲しくなる。酒があれば飲みたくなる。

 

ただ、出世しようとか、モテようとか、評価されようととか、役に立とうといった思いは日を追うごとに少なくなっている。

 

しかし、証券口座・銀行口座の残高には激烈な執着心を持っている。お金の力を見てきたこと。お金が嫌なことを遠ざけることを何度も体験しているからだと思う。